強烈で魅惑的な表紙絵から漂う危ない香り。
内容もしっかりその表紙絵を反映した、女装を強制されるようになる少年の友情と葛藤の物語。
――今回ご紹介するのは、以前このブログでも紹介した『こども・おとな』の福島鉄平先生の作品です。
『こども・おとな』は、子供の非常に繊細な感情の揺らぎを、独特な間と空気感で描写した傑作漫画でした。
そんな幼い子供達の心を描写するのが非常に上手い福島鉄平先生が、もっとエグめの境遇に置かれた子供達を描いたのが今回ご紹介する『福島鉄平短編集 アマリリス』です。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
『福島鉄平短編集 アマリリス』 | 福島鉄平 | 集英社 | 2014年 |
『福島鉄平短編集 アマリリス』を読んだら……
アブノーマルな少年少女の心の機微に心揺さぶられます。
万人におすすめできる漫画ではないかも知れませんが、少し特殊な境遇の子供達の、感動と葛藤の傑作短編集になっています。
特に女装少年が出てくる表題作「アマリリス」と、同じく女装する少年の和風な物語「私と小百合」はぜひ読んで欲しい傑作。
『福島鉄平短編集 アマリリス』はどんな漫画?
『福島鉄平短編集 アマリリス』は、全部で6つの読み切り漫画が収録されている短編集になっています。
お話はそれぞれ独立しており、最後の「アマリリス【epilogue】」だけは描きおろしの「アマリリス」を補完する内容になっています。
ここでは、各お話をざっくりと簡単に内容紹介しますので、読むかどうか悩んでいる方は参考にして頂ければと思います。
アマリリス
「へんたいのおじさん」によって親元を離れ、女装をしてお酒を注ぐ仕事をさせられる事になった11歳の少年ジャンの物語。
店で女装を強制的にしなければならないジャンの心の葛藤と、学校で出来た友人との心の交流が同時に描かれ、非常に少年の繊細な心に胸を締め付けられる不思議な読後感のお話になっています。
福島先生の絵のタッチが独特なポップさを持っているのですが、時にそのポップさは重苦しい雰囲気でも読み進める動力となり、また時には効果的に心を抉る要素にもなり得るのが不思議なところ。
物語終盤のジャンの心の葛藤と揺れ動きまくっている中での行動は、読むたびに解釈も変わってくるかも知れない実に繊細な描写で必見です。
イーサン飯店の兄弟は今日も仲良し
中国風の世界観で展開する、ハオラン(兄)とハオユウ(弟)の兄弟のキズナの物語。
ひたすらにハオランがいいお兄ちゃんで、どんな時でも必ず陰で弟を助ける姿が感動的です。
ハルよ来い
和風で日本昔話のような家族愛の物語。
主人公の少年カムリは、捨てられていたところをヤマウバ(いわゆる山姥のことで恐れられる存在)に拾われ、育てられました。
そんなカムリとヤマウバとの、感動の物語。
途中、ちょっと胸が痛い展開になるのですが、最後には泣けるとても良いお話。
ヤマウバの異変を福島先生はどういう意味合いで描いたのかがとても気になります。
ルチア・オンゾーネ、待つ
貴族の娘ルチアの、孤児院での物語。
父親の影響もあり、とにかく傲慢にふるまうルチアは孤立していて、痛々しいほどに孤児院の他の子供達に上から目線で接します。
そんなある日、似たような境遇の不思議な女の子と出会い、ルチアも変わっていく――という物語です。
意外な展開と、ちょっとした百合展開でドキドキする友情と愛の物語。
私と小百合
中学二年生のマコト少年と、マコトが苦手としている、同級生で坊主頭の坂東大介少年の物語。
マコトは普段から姉達に暇つぶしで女装をさせられていました。
ある日マコトは、女装している姿をたまたま家の前を通った大介に目撃されてしまいます。
しかし大介はその美しい女性がマコトであるとは気づかず、一目ぼれしてしまいます。
マコトである時には偉そうに接してくる大介が、女装姿のマコトを見る時にはドキドキしているように見えるのがマコトには面白くて仕方がなく、頻繁に女装姿で大介の前に現われるようになるマコト。
しかし厳しい父親にその事実がバレてしまい――というような内容の物語。
まず、女装姿のマコトが可愛い過ぎます。
そして、物語も女装のマコトがバレやしないかと終始ハラハラでき、とても面白く読めました。
いわゆるジャイアンタイプな大介がマコトの女装姿にトキメいてしまうのもなんだか可笑しくて、なにより結末がとても良かったです。
表題作の「アマリリス」と並んで、ぜひ読んで欲しいエピソードでした。
アマリリス【epilogue】
一番最初のお話「アマリリス」の結末を少し救ってくれる、そんなエピローグです。
短いお話ですが、じんわりと心あたたかくなる良いお話。
『福島鉄平短編集 アマリリス』を読んだ皆さんの反応
『福島鉄平短編集 アマリリス』は少年少女の危なげで脆い心、そして友情と絆を描いた衝撃のおすすめ1巻完結漫画
福島先生は本当に子供の心の繊細な描写が天才的なので、この『福島鉄平短編集 アマリリス』はかなり懐かしさと同時に胸が締め付けられるような気持ちにもなりましたし、もちろん感動もしました。
様々な感情になる、不思議な短編集でした。
王道な物語のものもありつつ、「アマリリス」などの重く、危ういテーマのものまで収録されていて、かなり贅沢で良い応えのある短編集なのではないかと思います。
冒頭でも触れましたが、女装少年もの2作は絶妙なエロさとエグさがあり美しくて面白かったのでぜひ読んでみて欲しいなと思います。
試し読みもできますので、ぜひ!
メインで利用する電子書籍サービスに悩んでいるようであれば、背表紙表示があるebookjapanがコレクション欲も満たしてくれるのでおすすめです。
詳細は記事にしてありますので、興味がありましたら読んでみてください。
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