発想力の天才と言えば、僕の中では真っ先に九井諒子先生の名前が思い浮かびます。
長期連載中の『ダンジョン飯』でもその発想力のすごさは見て取れますが、やはり九井先生の本当のすごさは短編にある、と僕は思うのです。
何しろ短編や読み切り作品というのは読者をのめり込ませるのが長編に比べて遥かに難しいのです。
その辺り、熱弁している1巻完結・読み切り漫画の魅力記事も興味があればお読み下さい。
だというのに、九井先生は毎度超面白い短編を連発してくるのです。
これはもう、発想の怪物です。
これまでにこのブログ『ヨミキリ』では九井先生の短編集を2つご紹介してきました。
そして今回で3つ目。
2冊ともくっそ面白かったし、もう流石にこれはちょっと微妙だったりするんじゃない?
と思っていたのに、今回もしっかりクッソ面白くてもう僕は九井諒子先生を尊敬して生きていく事に決めました。
というわけで今回は九井諒子先生の短編集『竜の学校は山の上』をご紹介。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
竜の学校は山の上 | 九井諒子 | イースト・プレス | 2011年 |
『竜の学校は山の上』を読んだら……
天才的な発想力の九井先生にひたすら脱帽する素敵なファンタジー短編でした。
『竜の学校は山の上』はどんな漫画?
『竜の学校は山の上』は、9つの短編が収録されている短編集になっています。
ゲーム的なファンタジーなお話から、現代と神話を合体させたようなお話まで様々で、どのお話ももれなく面白いです。
九井諒子先生の作品に関しては、本当に「紹介とかいる?」ってぐらいにハズレなしなのですが、迷っている方の為にざっくりと各話簡単な内容を書いてみますので参考にしていただければと思います。
帰郷
魔王を滅し、生まれ育った村に帰郷した勇者の物語。
九井先生のこれ以降の作品で主となる、ファンタジーな世界の「誰も描かなかった裏側」を描いた、ゲームとか好きであればあるほどツボる勇者の後日譚。
魔王を倒したからって人生が終わるわけではなく、むしろ様々な新たな問題が出てくる……。
そんななんとも生々しいお話です。
全体的に村人目線で描かれており、ラストがじわっと沁みます。
魔王
お次は魔王のお話。
しかし単に悪魔的な魔王ではなく、悲劇によって魔王になってしまうまでが描かれ、さらに想像を膨らませる終わり方によって少ししんみりする良いお話。
魔王城問題
1話目から3話続けて「ドラクエっぽい」世界観のファンタジー作品が続きましたが、このお話が一番僕は興味深く読めました。
何しろ、このお話で描かれているのが「魔王を滅した後の魔王城はどうするか?」という、とても現実的な問題が描かれているからです。
さらに、アドバイス役で勇者も登場し、街の人人が冒険中大して勇者一行を助けてくれなかったことを批判したり、とにかく生々しいやり取りが世界観の説得力をぐんと増します。
使われなくなった魔王城は最後にどうなってしまうのか?
最後まで、感動もできるとても良いお話になっていました。
支配
宇宙人が、文明の進化の止まってしまった惑星の手助けとして「生き物製造機」をプレゼントするお話。
星新一のショートショートのような、皮肉の効いた面白い短編になっています。
代紺山の嫁探し
このお話は日本昔話的な和風な作品。
とある村の男性が、人間ではなく神様を読めにもらおうと村長達と女神を訪ねていくお話。
このお話を読んで九井諒子先生を改めて「すごいなぁ」と僕は思いました。
というのも、1つの割としっかりオチまでまとまっているお話なのに、さらに細かい驚きやエピソードを丁寧に盛り込んであるのです。
それにより、短編でありながらすごくボリュームのあるお話を読んだような読後感もあります。
現代神話
もしこんな世界があったら——というのを描くのが九井諒子先生はとにかくうまいと思います。
このお話では、我々人間(猿人)と、半身がケンタウロスのように馬になっている馬人とが共存する世界での生活が描かれています。
人間と馬人とが結婚している家庭もあり、人間同士の結婚と異なり特殊な悩みが多数あったりもします。
そういった「あたかも本当に存在している世界」かのように具体的な例を出して説得力を持たせるのが、毎度九井先生はすごいなぁ、と僕は感じるのです。
群像劇のような構成になっていて、読み応えのある傑作エピソードです。
進学天使
これまた九井先生っぽい、天使が出てくるお話。
天使と言っても神様とかではなく、奇病によって稀に背中に羽が生えてしまう人間がいる世界観でのお話。
羽が生えているからといって簡単に飛べるわけじゃなかったり、羽が生えているから専門のトレーニング環境のあるアメリカ留学をすべきか悩んでいたりと、リアリティのある描写がとても面白いです。
ラスト、素敵なコマ割りなどが相まって泣けますのでハンカチをご用意してお読みください。
竜の学校は山の上
表題作であり、たぶん相当力入れて世界観は作り込んだんだろうな、と思える「竜がいる世界」の話。
舞台はファンタジーによくある中世ヨーロッパなどではなく、現代の日本。
それも、「竜学部」なる特殊な学部のある珍しい大学でのお話。
このお話を読んでいて、これまで感じていた「九井先生は世界観の作り込みがうまい」という感覚が、実はそうではなくて「九井先生は世界観を作り込むのが大好き」なんだろうな、と考えを改めました。
好きじゃなきゃできないだろ、と思うレベルで「竜が実在する世界」がしっかり作り込まれており、竜の生態から人間社会へ及ぼす影響までもが隙なく作り込まれています。
それだけでもすごいのに、しっかりと大学生達の間の物語も描き、最後には考えさせられつつ感動もしてしまうという天才的構成。
恐ろしい作品です。
くず
いきなり強烈なタイトルの作品。
文字通り、くずみたいな生活をしている男性が、大人数での共同生活をするだけ、という怪しいけれど稼ぎの良いバイトをするお話。
くずのお話ではありますが、ラストは少しだけ前向きな気持ちになる不思議なお話。
『竜の学校は山の上』を読んだ皆さんの反応
『竜の学校は山の上』は相変わらずの超発想力を持った九井諒子先生にひたすら脱帽する超傑作短編集
九井諒子先生の作品を他に読んだことがあり、作風が好きなのであればこの作品も文句なしでおすすめできます。
確実に面白いです。
そして、もし九井作品を全く知らない方がいたら、どの短編集でもいいので読んでみて欲しいと思います。
本当に、驚き、脱帽すると思います。
1つの話がすごいだけなら、まぁなくはないと思うのです。
しかし九井諒子先生は連発して、かつその全てが独創的で面白いという、変態発想力の持ち主なのです。
ぜひ、読んでみるべきですし、そのスタートとしてこの『竜の学校は山の上』はうってつけだと思います。
試し読みからでも、ぜひに!
厳選した超おすすめの1巻完結・読み切り漫画特集もよければあわせてお読みください↓↓
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