「マタギ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
もしかしたら、大人気漫画『ゴールデンカムイ』で知ったという人も多いかも知れません。
マタギとは、簡単に言えば古くから伝わるルールに則り狩猟を行う、山岳地帯で活動する狩猟集団の事です。
そのルーツは平安時代にまでさかのぼり、独特の宗教観を持ち、とにかく獲物である動物達への畏敬の念を忘れません。
しかし様々な時代の変化に伴い現代ではマタギ猟をする人自体がかなり減っているようなのですが、それでもまだその伝統が残っている事は驚きです。
そして、マタギの中でも特に有名なのが、秋田県のマタギ文化発祥の地ともされている阿仁(あに)のマタギです。
その阿仁のマタギを中心に、過酷で危険で忍耐ばかりだけれども、美しくかっこいい狩猟と生活と活躍とを描いた大ボリューム漫画『マタギ』を今回はご紹介します。
作者は『釣りキチ三平』などで有名な、矢口高雄先生。
この『マタギ』は紆余曲折あって誕生した漫画で、実は一度『マタギ列伝』(1972年~1974年)という漫画を連載し人気を博していたのですが、出版社と揉めたようで(今回紹介する漫画の巻末にも、その辺の事が簡単にですが先生ご自身のあとがきとして書かれています)突然打ち切りに。
それが、違う出版社の元で新たに『マタギ列伝』の人物も引継ぎ、物語も包括し描かれたのがこの『マタギ』(1975年~1976年)なのです。
故にその熱量は凄まじく、1巻完結漫画ですがなんと800ぺージ超え。
そして、めちゃくちゃに面白いです。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
マタギ | 矢口高雄 | 山と渓谷社 | 2017年 |
『マタギ』を読んだら……
狩猟への見方も変わり、崇高なる職人集団「マタギ」の生き様にひたすらシビれます。
『マタギ』はどんな漫画?
『マタギ』は、狩猟集団「マタギ」を描いた大ボリュームの1巻完結・読み切り漫画です。
構成は全部で9つの章に分かれており、時系列が不明なものもありますがラストの「別章」以外は全て同じ世界観のマタギの物語です。
冒頭でも書きましたが、本当に超ボリュームで800ページ以上あるので(普通の漫画で200ページ前後。読み切り短編集とかでも300超えたらかなり多い方です)、読み切るには早くても1時間以上はかかると思いますので、じっくり腰を据えて読むことをおすすめします。
描かれているのは、普通の感覚では理解できないような崇高な思想と自然への畏敬の念を忘れないマタギ達の狩猟や活動です。
それらはとても興味深く、そして気高さと神秘的な清らかさに満ちています。
この『マタギ』は第5回日本漫画家協会賞大賞を受賞しているのですが、大いに納得の内容になっていました。
では、それぞれの章の中身を簡単にご紹介しますので、購入しようか悩んでいる方は参考にして頂ければと思います。
章之壱:野いちご落し
阿仁マタギの一団を描く最初の章。
マタギがいかにして獲物を追い詰め、仕留めていくかが丁寧に描かれています。
単に待って銃で仕留めるだけではなく、季節のタイミングを見計らうところから始まり、風を読み、痕跡を読み、あらゆる仕込みの果てに獲物との格闘があるのです。
そしてこの章では、全体を通して主役と言っても差し支えない人物、人呼んで「野いちご落しの三四郎」の名前の秘密と活躍が描かれます。
矢口先生は自然ののどかさと美しさを描くのも天才的ですが、同時に厳しさも描くのが作風の1つ。
途中、結構悲惨な描写があったりもするのですが、それもまた自然の厳しさ。
最初の章とは思えないほどに非常に濃くて面白さの詰まった物語が読めます。
余談ですが、超ボリュームは伊達じゃないのでこの章だけで200ページ以上あります。
章之弐:怜悧の果て
この章の主役は誰か? と聞かれたら、「キツネ」と答えるしかないでしょう。
この章で描かれるのは、とあるマタギの男が執念深く追いかけている一匹のキツネと、そのキツネの家族の物語です。
マタギの漫画を読んでまさかキツネに泣かされるとは思いませんでした。
矢口先生らしい、人間と動物双方の業を描いた、深くてとても良いお話。
章之参:オコゼの祈り
秋田県仙北郡の仙北マタギの男のお話。
男には無二のパートナーと言うべき犬がいて、その犬と連携して狩猟をしていました。
しかしある日、その犬がクマと遭遇した際にミスをし、内臓が飛び出そうになるぐらいの傷を負います。
普通なら死んでしまうレベルの傷だったのですが、男が自ら傷口を縫い、辛抱強く介抱したおかげでその犬は一命をとりとめました。
そしてその犬と男の絆は深まり、狩猟の際も大活躍の名コンビとなったのですが……。
後半の展開は自然の厳しさそのものとしか言えない展開で、非常に胸が痛くなります。
マタギとして生きることの過酷さとたくましさがわかる、とても良いお話。
章之肆:勢子の源五郎
マタギの間でまことしやかに囁かれる伝説、「サカブ」の物語。
サカブとは、山の神が発する雄たけびのこと。
長くマタギをしている者でもその声を聞いたことのある者は少ない、超レアな山の神の声なのですが、この章では勢子(銃を持たず、獲物を音をたてたりして誘導したりする役割)の男がサカブが聞こえるようになり、神がかった現象を起こしていきます。
山の神の声を聞けるようになってしまった男はどう変わっていってしまうのか?
ミステリアスで惹き付ける展開の章です。
章之伍:アマッポ
物語はまた三四郎属する阿仁マタギの一団に戻ります。
この章では、アマッポと呼ばれるマタギからしたら許す事のできない、自動で動物を撃つカラクリが登場します。
そして同時に、三四郎が所属するマタギの一団のシカリ(隊長)の過去の過ちも明かされ、物語は一気に加速していきます。
章之陸:行者返し
前章で起きた出来事の続きで、三四郎はシカリに命じられ、その先に何があるかわからない「行者返し」と呼ばれる危険地帯の先へ向かうことになります。
マタギの流派はいくつかあり、その内の1つでありもう絶滅したと思われていた流派「小玉流」の者がもしかしたら生きているかも知れない、とシカリが予想したからです。
1人不入山へと向かった三四郎はその先で何を見るのか?
章之漆:寒立ち
雪の中、餌を求めて彷徨うカモシカとオオカミのお話。
オオカミの頭の良い作戦と、自らの角の威力に驚き感動するカモシカの描写が見事です。
さらに三四郎の名前の秘密がさらに明かされます。
終章:樹氷
阿仁マタギの三四郎の物語のラストとなる章です。
最後の章では、絶滅したとされていたニホンオオカミとマタギの三四郎との戦いが描かれます。
マタギの三四郎が最後に目撃するものは一体なんなのか?
予想外の展開のラストはぜひご自身の目で確かめてみてください。
別章:最後の鷹匠
この物語は、実在の鷹匠「土田力三」氏が事故死した際に、土田氏が飼っていた鷹が捜索隊に鳴いて遺体の場所を知らせた――という実際にあった出来事から、矢口先生が描いた鷹匠の物語です。
結局のところ、動物と人間とは「信頼」し合うことが何よりも大切なのだ、と教えられました。
『マタギ』を読んだ皆さんの反応
『マタギ』は究極の狩猟集団の礼儀と実情を描いた超おすすめの大ボリューム傑作漫画
紆余曲折の末に誕生した『マタギ』は、謎多き狩猟集団マタギを丁寧に描いた作品であるだけでなく、自然と動物への尊敬の念もしっかり盛り込んだ、最高の1巻完結漫画になっていました。
悔やまれるのは、『マタギ列伝』の方が半端に終わってしまったことだけでしょうか。
自然と動物、そして「マタギ」に少しでも興味がある方は、ぜひ読んでみて欲しいです。
超ボリュームですので値段も普通の漫画よりは高めなのですが、内容めっちゃ濃いので値段以上の体験ができます。
崇高な職人狩猟集団「マタギ」の世界をぜひのぞいてみてください。
そして何より、矢口先生の物凄い熱量を感じて欲しいです。
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