『うどんの女』で強烈なインパクトと共感をくれたえすとえむ先生の短編集『このたびは』を今回はご紹介。
『うどんの女』では、30を過ぎた女性と大学生との歳の差恋愛をを生々しい心情描写などですごく面白く、そして不思議な読後感をくれる作品として魅了してくれました。
今回ご紹介する作品では、結婚・妊娠・お葬式など、人生における転機とも言える大きな出来事を前にした人間模様が中心に描かれており、独特の生活感と空気感が非常にリアルで惹き込まれます。
そしてやはり相変わらず、微妙な心の機微の描き方が抜群に巧いです。
特に近い体験をしたことがある女性には刺さる漫画なんじゃないかなぁ、と思います。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
このたびは | えすとえむ | 祥伝社 | 2014年 |
『このたびは』を読んだら……
人生の転機を迎えた女性達の微妙な心の動きと決断を見届け、少しあたたかい気持ちになれます。
『このたびは』はどんな漫画?
『このたびは』は、えすとえむ先生による様々な女性の人生の1ページを描いた短編集です。
全部で7つの短編が収録されており、「ススキ」と「妹のこと」の2つの作品だけはつながったお話ですが、それ以外は全て独立した読み切り作品です。
ここではそれぞれのお話がどのような内容か、簡単いご紹介しますので、読もうか迷っている方は参考にしていただければと思います。
ふつつかものですが
32歳女性が主人公のお話。
バリバリ働く独身女性でモテもするのですが、結婚に関しては慎重。
特にこのお話の主人公の女性は、顔に関しては絶対に妥協しないと決めているのです。
結婚する相手は性格がいい人――だとか、価値観が合う人――だとか色々な意見はありますが、このお話の女性は「結婚だからこそ、唯一変わらない顔面にはこだわりたい」という自分なりの考え方を持っています。
そんな女性が、お見合い写真でついに最高の顔面を持つ男性に出会ってしまう――という内容です。
終盤、タイトルを回収する場面では思わずじんわり感動しちゃいます。
はれ
遠距離恋愛している主人公女性・晴(はる)が、彼氏のリョウの住む新潟へ呼ばれ、訪ねていくお話。
新潟のリョウの実家ではまだ結婚していないにも関わらずまるで花嫁のような扱いを受け、お祭りに連れて行ってもらったり多くのリョウの家族や親せきに挨拶したりして過ごす晴でしたが、なんとなく大事な事を確認できずにいる自分にモヤモヤしています。
終盤は、人間の心の本当に微妙で細かな揺れが描かれていて、リョウと晴のセリフ1つ1つがなんとも意味深で想像させます。
遠距離恋愛の不安さや覚悟など、色々な事を深読みできるお話になっています。
K
仲違いしていた娘と父親のお話。
娘のユミは、倒れて入院した父親に届ける為に父親の本棚を調べていると、ランボーの詩集を発見します。
さらにその詩集の中から一枚の写真が出て来て、そこには19歳の時の父親の誕生日を祝う文言が書かれていました。
ユミはなんとなく気になり、その写真の撮影された場所、千葉県館山へと向かうことになります。
タイトルも展開もクライマックスも、なかなかに抽象的な内容なので色々と考察したくなります。
タイトルの「K」は何のKなのか?※多分お父さんの名前の頭文字。
ユミが最後に見つけたよ、と言ったのは何だったのか?※多分ランボーの「永遠」の一節を作中と同じように言っただけか?
などなど、ちょっとあなたも読んで考えてみてください。
ススキ
久々に実家へ帰省した姉妹のお話。
姉が思い立って帰省したら、偶然妹も帰省していた――というちょっとした奇跡姉妹あるあるなのかも知れません。
そしてこのお話の中心となるのが、妹の妊娠。
終盤、ススキの生い茂る原っぱで姉妹だけの会話が展開しますが、とても細かく揺れ動く姉妹の心が実に繊細です。
僕は男兄弟しかいないのでこの微妙な心の動きに共感は出来ませんが、兄弟姉妹って実は凄く複雑な感情があったりするものです。
そして大人になってから、それをより濃く感じるようになったような気がします。
このたびは
妻の祖母が亡くなってしまい、一緒に妻の実家へとお葬式に参加すべく帰省することになった男性のお話。
妻の実家で肩身が狭く、何もすることがなくなってしまった男性の描写には笑えると同時に想像したら恐ろしくなりました。
さらにはお通夜などの話をする親戚同士の描写もリアルで、まるで主人公男性の気持ちになったかのように肩身が狭くなるような気がしました。
この男性はパチンコ店で働いており、それもまた肩身が狭い理由の1つだったりするのですが、亡くなった妻の祖母もまたパチンコ好きだったと聞いたからか、棺に入れる紙にパチンコ玉を描いたのはなんだか泣けました。
終わり方も含め、お葬式のお話なのになんだかあたたかい気持ちになれるお話です。
凛
双子の姉妹の成人式のお話。
成人式前日に髪を切ってしまった凛子の心情は実に読み取りにくく繊細です。
妹のこと
「ススキ」と繋がっているお話。
なんとついに妊娠していた妹が出産したよ!という内容なのですが、産まれてきた赤ちゃんはどうやら日本人ではない肌色。
最初は姉妹の母親も姉も戸惑いますが、最後には赤ちゃんのかわいらしさで全てを許してしまう、赤ちゃん最強説なお話。
『このたびは』を読んだ皆さんの反応
『このたびは』は人生の転機の人間模様が描かれた深くてあたたかいおすすめの1巻完結短編集
えすとえむ先生の、絶妙な心理描写にセリフが堪能できる『このたびは』。
タイトルの『このたびは』がまずイイです。
表題作ではないのですが、最初に収録されている「ふつつかものですが」もまた、滅多に言うこともないし聞くことも珍しいけれど、おそらく誰もが知っている言葉であり、それをタイトルにもってくるあたりにセンスを感じます。
おすすめするとしたら、やはり女性の方が共感できる部分は多いのではないかと思います。
気になった方は、ぜひ読んでみてほしいです。
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