繊細で華奢な少女を描く達人である、『ぼくらの』や『なるたる』の作者である鬼頭莫宏先生。
以前このブログでは、デビュー作も収録されている『鬼頭莫宏短編集 残暑』をご紹介しました。
そして今回は、殻を上に積み上げていくように成長を続ける殻都市を舞台にして描かれた近未来SF作品『殻都市の夢』をご紹介。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
殻都市の夢 | 鬼頭莫宏 | 大田出版 | 2006年 |
連載されていたのは今は休刊してしまっている『エロティクスF』で、アダルト作品ではありませんが性描写などはあるので読む際はご注意ください。
『殻都市の夢』を読んだら……
近未来な世界観の舞台に心躍り、ダークな展開に揺さぶられます。
『殻都市の夢』はどんな漫画?
舞台は「殻都市」と呼ばれる、独特な構造で成長を続ける近未来の都市。
殻都市と呼ばれる理由はコップを逆さにしたものを積み重ねていくように上へ上へと増築していくことで拡大していく都市であるから。
しかしその特性上、下層はどんどんと経年劣化していき、崩落も頻繁に起こるようになっています。
下層に住む人々の事は、上層からも全てを把握できているわけでなく、独自の村のようなものを形成している人々まで下層にはいます。
そんなカオスな「殻都市」で、様々な物語が展開していく漫画になっています。
全部で7つのお話が収録されているので、それぞれ簡単にどんなお話かご紹介いたします。
ネタバレし過ぎぬよう簡単な説明に留めますので、ご購入の参考にしていただければと思います。
第1話:誕生日の棺
「私が殺されているから助けて」
という電話が管理官の元にかかってくる所から物語は始まります。
電話してきた女性に会って話を聞いてみると、旦那さんが自分のクローンを作り殺し続けている――という訴え。
管理官達はその旦那さんの元へ行き、クローンの真実を目の当たりにする……というお話。
それは偏愛なのか、それとも純粋な愛なのか?
という考えれば深いテーマのお話。
因みにこの漫画に出てくる警察のような組織ですが、鬼頭先生自身の設定資料が巻末に掲載されており、それによると「管理官」と言う役職であることがわかります。ただ、細かな設定は特にないようです。
第2話:3年間の神
殻都市が抱える貧困問題により、多数の路上生活孤児が存在し、また餓死していく孤児も多数いる。
そんな孤児を3年間の条件付きで救いだした男と、少女の物語。
これもかなりヤベェ方向に屈折しているものの、神って言ってしまえばそういうものなのかな、と思えなくもない不思議な読後感のお話。
第3話:生死者の聲
ごくまれに外殻都市で発生する「丙種遺体」と呼ばれる現象。
簡単に言えばゾンビのことで、死んでいるにも関わらず動き、逃走したりするコワイ存在。
そんな丙種遺体がまた確認され、管理官が確認に行くが、丙種遺体の意外な逃走の理由を知った管理官は丙種遺体に協力することに。
脳も腐っているのに動いている遺体は人と呼べるのか?
それに意志などあるのか?
という思考実験的でもあり、最後は感動できる素敵なお話。
第4話:媚薬水の味
殻都市の17世代階層ホナテビル507号室――。
「その部屋の風呂にたまった水は女性に飲ませればイチコロな強烈な媚薬になる」という噂を聞きつけて探検しに来た少年達が、崩落に遭い謎の少女に介抱されるお話。
様々な人種が下層に住んでいることも知れ、殻都市に深みを与えてくれるお話でもありました。
第5話:座敷童の印
殻都市の崩落個所を見つけ、修理依頼をする仕事をしている青年が座敷童のような少女と出逢うお話。
不思議な少女の能力は何の為のものなのか?
ちゃんと座敷童ともしちゃうのは『エロティクスF』故の宿命。
第6話:造物主の檻
ゲーム開発者の男が、現実世界でもゲームのような常軌を逸した少女収集をしてしまうお話。
眺めはするけれど絶対に干渉はしない。
干渉するぐらいなら自首する――という独特な男の価値観がとても面白いです。
それぞれに絶対に譲れない一線があり、それはどんなに歪んでいようとも当人にとっては譲れないのです。
第7話:渉猟子の愛
お金持ちの道楽として作られた、リアル歩く辞書の役目を果たす「渉猟子(しょうりょうし)」と呼ばれる少女達。
彼女たちの頭の中には100万冊近い書物の情報が入っており、それを朗読することが出来る。
同時に愛玩目的で買われることもあり、また時には暗記してはいけない「禁書」を覚えさせられる渉猟子もいる。
倫理的に色々マズイテーマではあるものの。渉猟子という設定はこの漫画の中でも一番面白かったです。
そしてこの最終話の終わり方もキレイにまとまっていて素敵でした。
『殻都市の夢』を読んだ皆さんの反応
↑↑この方のツイートの御蔭で作中で旦那さんが数にこだわってた理由がわかりました。
ゾンビのお話(丙種遺体)、面白いです。
『殻都市の夢』殻都市を舞台に展開する哀しく切ない物語が詰まった鬼頭先生らしさ全開の1巻完結漫画
ちょっとエロで、少女多くて、殻都市とかいうワクワクしかない近未来SFで、ダークで切ない短編集、それが『殻都市の夢』です。
このワードどれかに引っかかる人は、きっと面白く読めると思います。
特に鬼頭先生の作品が好きなら、今作は鬱要素少ないと思うのでさらにおすすめできます。
繊細なタッチで描かれる殻都市と少女に浸ってみては?
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