力強い絵のタッチと、圧倒的なリアリティとグロテスクさで描かれる様々な昆虫・類人猿・巨獣。
人間を取り巻く様々な「異生物」との物語がメインで、4編の物語が収録されている読み切り短編集が今回ご紹介する『田中雄一作品集 まちあわせ』です。
読み始めたばかりの時には絵の濃さと異生物のリアルさに若干引いてしまう方もいるかも知れませんが、そこにとても重厚なドラマがあることがわかってくると面白くて読み進める手が止まらなくなります。
4編なので少ないかとおもいきや、それぞれのボリュームがすごいので普通に1巻完結漫画よりもかなり長く、読み応えも充分な傑作になっています。
グロ耐性さえあるならば、もう僕の紹介なんか読まずにすぐ読んでみて欲しい、それぐらいの傑作でした。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
田中雄一作品集 まちあわせ | 田中雄一 | 講談社 | 2014年 |
↑の表紙絵を見て頂くと、ほっこりするような平和なSF作品なのかな?と想像できます。
しかし読んだらわかるのですが、めっちゃ泣ける表紙絵だったりします。
余談ですが、田中雄一という名前で有名アニメーター兼演出家の田中雄一さんを思い浮かべた方もいるかも知れませんが、同姓同名なだけで別人物です。
『田中雄一作品集 まちあわせ』を読んだら……
濃くて面白くて泣ける、とんでもない傑作漫画でした。
『田中雄一作品集 まちあわせ』はどんな漫画?
『田中雄一作品集 まちあわせ』は、4つの読み切り短編で構成された短編集になっています。
どのお話も、人類と何らかの生命体とが争っていたり、または共生したりしている世界設定になっていて、世界観の作り込みもしっかりしているので読んでいる際の世界への没入感も凄いです。
因みに、読んだ後に先生のwikipediaを見たら、「好きな映画はエイリアンとターミネーター」と書いてあり、「でしょうね!」と全僕がツッコミました。
では、各物語をネタバレしすぎぬよう、ざっくり紹介してみますので、購入する際の参考にしてみて下さい。
害虫駆除局
最初の物語は、講談社の『月間アフタヌーン』が永らく開催している漫画新人賞「アフタヌーン四季賞」において2009年春に四季賞を受賞した読み切り作品です。
近未来、日本国内で突如大繁殖してしまった十二脚虫(じゅうにきゃくちゅう)という超絶キモイ虫と人類との戦いの物語。
設定だけだとぶっ飛んでいるように思えるのですが、読み進めていくうちに地球でも起きているバッタの大量発生などと同じようにも思えてくるので、全然ない話ではないな、と思えてきてゾッとします。
主人公は虫が好きすぎて害虫駆除局に入った変わり者の男性。
この男性が、様々な駆除作戦に参加し、上司の過去に触れ、そして危機に陥ったりもして――と序盤のキモささえ通り過ぎれば一気に止まらなくなる面白さがあります。
虫の描写もとても細かいので、イヤな気分になりなつつもリアリティがありすぎて続きが気になって仕方ない――という中毒性のある読み切り作品になっています。
終盤の展開はマジの戦慄と鳥肌モノです。
プリマーテス
我々人間は進化の過程でたくさんの争いをし、勝ち残ってきました。
我々の種はホモ・サピエンスと呼ばれている事はご存知かと思いますが、この「プリマーテス」という作品で描かれるのは、ホモサピエンス以外の異人類も存在している世界。
プリマーテスとは、霊長類と言う意味です。
やはり我々人間(ホモサピエンス)が最も力を持ってはいるのですが、異人類の人権を守る運動が起きていたり、またちょこちょこ異人類が迷い込んできたりもします。
そして、中には超狂暴な異人類もおり、人の顔の皮を剥ぐヤベェ異人類が現れ物語は大きく動いていきます。
このお話も非常に面白いです。
田中雄一先生の絵は、しっかりと「悪い異人類」は悪く描き、「賢い異人類」は賢く見えるように描かれているので絵自体にものすごく説得力があるのです。
後半はやはり怒涛の展開となり、最後には少しほっこりする、かなり完成された読み切り作品です。
まちあわせ
表題作。
冒頭で触れたように、表紙絵とも大きく関係しているお話です。
やはりこのお話も異生物が出てくるSFな物語なのですが、それでいて物凄く純愛、そして物凄く泣けるとんでもないお話です。
さわりだけ書いてみますが――
街の一角に突如現れた、巨大な樹の根のような物体。
その謎の物体の現れた4年後、その物体の中から15人の人間の赤ちゃんが発見されました。
「それはみんな女の子で その1人が 俺の恋人なんだ」
――という、主人公の語りから物語は始まります。
異物から発見された赤ちゃんが恋人……。
もうどんな展開が待っていても驚きはしませんが、予想を遥かに超える、超スケールの愛と感動の話が展開していくのです。
このお話はぜひ、ご自身で確かめてみて欲しいです。
きっと泣けますし、表紙絵を見てもう一度泣けちゃうはずです。
傑作でした。
箱庭の巨獣
進撃の巨獣なお話。
相変わらずの超画力で大迫力の巨大生物が見れます。
これまた独自の世界観のお話で、巨大生物が溢れてしまった地球で、人類は地下に「巣」を作って逃げるように暮らすようになってしまっています。
そしてそれぞれの巣は、守り神のような一体の「巨獣」に守護されており、舞台となる巣では「麒麟」と呼ばれる巨獣が守ってくれています。
ちょっと言葉にしても難しいと思いますが、とにかく人類は巣で暮らしていて、各巣には一体の巨獣がいて、その巨獣は選ばれた人間と融合することで存続するのです。
てっきり主人公が巨獣になってめでたしめでたしなお話かと思いきや、予想外のラストが待っています。
最後までなんとも生々しい気がして、感心しきりな作品でした。
『田中雄一作品集 まちあわせ』を読んだ皆さんの反応
セカイノオワリをすごかったと言わしめたほぼ世界の終わりの短編集です。
確かに全類人猿におすすめしたいのですが、ガチな虫や猿のグロい感じだけが万人にはすすめにくいネックになる気はします。
作者の田中雄一先生のミステリアス感もマジ最高。
『田中雄一作品集 まちあわせ』は圧倒的リアリティの異生物と人間との戦いと感動の物語でマジにおすすめの一冊
もうこの漫画は本当に読んでみて欲しいです。
虫とか嫌いない人にだけは素直に「やめとけ」と言っておきますが。
物語性も素晴らしく、「まちあわせ」に至っては下手すりゃ大号泣ですし、ものすごく面白い映画観た後のような読後感で幸せです。
さらに現代社会にも通ずるようなお話ばかりなので、考えさせられもします。
ひとまず試し読みだけでもしてみてください。
そしてマジで、「まちあわせ」の見たことないレベルの壮大なSF純愛ストーリーっぷりを体験して欲しいのです。
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