もし鬼頭莫宏先生の作品の大ファンであって、今回ご紹介する『鬼頭莫宏短編集 残暑』をまだ読んだことがない人がいたら、それは非常に勿体ないです。
鬼頭莫宏先生と言えば、『ぼくらの』であったり『なるたる』であったりの作風は、かなりダークな世界観です。
しかし最初期の鬼頭莫宏先生の作品も収録されている短編集『鬼頭莫宏短編集 残暑』を読めば、きっともっと鬼頭先生の多才さを再発見することになるはずです。
簡単に言えば、ほとんどの作品が「切なく、あたたかい」のですから。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
鬼頭莫宏短編集 残暑 | 鬼頭莫宏 | 小学館 | 2004年 |
『鬼頭莫宏短編集 残暑』を読んだら……
鬼頭莫宏先生の意外な作風のデビュー作でほっこりできます。
『鬼頭莫宏短編集 残暑』はどんな漫画?
鬼頭先生と言えば、やはり繊細な心を持った少年少女を思い起こす方が多いのではないでしょうか?
この短編集でも、ほとんどの作品が少年少女のお話。
そしてどの作品も、とてもやさしくて心に沁みわたる、良い物語ばかりです。
鬼頭先生のエグみだけを期待していると、ちょっと肩すかしかも知れません。
しかし本当に、読後感もとても良い映画を観た後のような爽やかなものです。
ざっとネタバレしすぎないよう、各作品を紹介しますので購入する際の参考にしてみてください。
第1話:残暑
交通事故により命を落とした妹が、突然兄の部屋へと幽霊になってやってくるお話。
兄の事が大好きな妹が交通事故に遭った日、向かっていた場所と託されていた手紙の謎が明かされた時、優しい感動に包まれます。
鬼頭先生が1987年に描いたデビュー作で、空気感やアングル等もとてもセンスを感じられる流石な作品です。
第2話:三丁目交差点電信柱の上の彼女
こちらも幽霊のお話。
どうやら死んでしまったらしい主人公の少年が、なぜ自分が死んでしまったのか?本当に自分は死んでしまったのか?
などを、幽霊が見える少女との交流で考えていく話。
意外な展開で最後はとてもあたたかい気持ちになれるお話です。
第3話:華精荘に花を持って
小学校の時、ある少女と約束した事。
それは、「大人になったら華精荘に行こう」という約束。
――高校卒業後のクラス会が開かれるという日に、その少女から電話が来て「あの約束覚えてる?」と言われるところから物語は始まります。
タイトルの華精荘とはラブホテルの名前で、2人は様々な想いを胸に花束を持ってそのラブホテルへと向かうことになります。
ちょっと切ない、そして色々と考えさせられるお話。
第4話:よごれたきれいな
このお話が僕的には一番心に残りました。
学校でもトップクラスの成績を持つ美人でお金持ちの少女。
誰からも羨望のまなざしで見られ、一目置かれる存在だったのですが……。
少女の父親が経営失敗から自殺をしてしまったことをきっかけに、一気に少女への憧れは憎悪へと変わり、苛烈なイジメの標的とされてしまいます。
傍観者のようにそれを流れのままに見知っていた主人公の少年は、似たようなきっかけで次のいじめの標的にされてしまうことに。
――いじめ描写のあるちょっと暗めな内容ではあり、終わり方も決してハッピーエンドではないのですが、少女が物凄く恥ずかしがった理由と、それを察せられない少年の無頓着さがなんとももどかしく、とても印象に残るラストでした。
最後の1コマも、子供の頃を思い出させる切なさを感じさせるとてもセンスのある1コマだと僕は感じました。
ぜひ読んでみてほしいです。
第5話:AとR
バイク好きの鬼頭先生らしい、カワサキのバイクがメインのお話。
そして、この短編集の中では一番わかりやすく面白い作品だと感じました。
学生時代、ノーヘルで女子を後に乗せたあの日。
そして大人になって、再会した彼女はまさかの……。
読後感も爽やかで、ラスト1コマも最高です。
あ! っていう。
第6話:パパの歌
初めて子供が出来てしまい、チャラついている自分が父親になる?という葛藤をとても面白く、そしてわかりやすく描いている傑作。
車と、忌野清志郎の曲とが大きなキーになっているのも巧いです。
最後まで素敵なお話。
第7話:ポチの場所
古き良き時代を思い出させるお話。
小学生の主人公の身の回りで起こる、とても小規模だけど彼らにとってはとても大きな物事のお話。
駄菓子屋での寄り道、その寄り道がクラスの女子にチクられて学級会での議題になる、セルフでかごにお金を払うシステムの駄菓子屋などなど、エモいものが沢山出てきます。
変わっていくもの、変わらないもの、そして変えたくないもの。
そんなことをテーマにした作品なのかな、と思いました。
とても心あたたまる作品です。
『鬼頭莫宏短編集 残暑』を読んだ皆さんの反応
まさかの呪術廻戦と残暑の比較!
↑↑この方の言うように、『ぼくらの』などのイメージしかない人にこそ読んで欲しいです。
『鬼頭莫宏短編集 残暑』はちょっぴり胸が痛く、そして温かい最初期の鬼頭先生の作風も垣間見える傑作短編集
繰り返しちゃいますが、鬼頭莫宏先生へのイメージが固まってしまっている人にこそぜひ読んで欲しい一冊です。
基本、全てのお話が心温まる読後感なので、全く陰鬱な気持ちにはなりませんので。
そして読み終わったら、「漫画家ってやっぱりすごい」ときっと思うはずです。
ぜひ、試し読みだけでもしてみて下さい。
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