独特な世界観と不思議な構成、そして作り込まれた物語が非常に魅力的な市川美子先生の世界。
長編連載の『宝石の国』が特に有名ですが、今回ご紹介するのは何度も繰り返し読み、深く味わいたくなる不思議な物語が詰まった短編集『虫と歌 市川春子作品集』です。
タイトル | 作者 | 出版社 | 発売年 |
虫と歌 市川春子作品集 | 市川春子 | 講談社 | 2009年 |
この漫画に関しては、1コマ1コマの意味やほんのわずかなセリフも大きな意味を持っていたりするので、少しだけ「しっかり読む」必要はあります。
そしてそれぞれの物語の結末を読んだ時、きっと涙が込み上げてきちゃうと思います。
『虫と歌 市川春子作品集』を読んだら……
独特な空気感とテンポの世界観に引き込まれます。
『虫と歌 市川春子作品集』はどんな漫画?
『虫と歌 市川春子作品集』は、4つの読み切り短編と、1つの超ショートな描き下ろし漫画が収録されています。
どの漫画も、少し不思議な世界観と、「生命」を扱っているのが共通している特徴です。
そしてその「生命」が非常に独創的であるところにこの作品の面白さはあります。
各話、ざっくりとネタバレしないように紹介しますので、読んでみたいかどうかの参考にしてください。
星の恋人
久しぶりに叔父さんの家預けられることになった主人公の少年。
叔父さんの家に行ってみると、そこには記憶にはない可愛らしい女の子の姿が。
徐々に明らかになる女の子の正体と、そして主人公の少年自らの秘密とは?
のっけからとても衝撃的なお話。
いちいちエピソードが面白く、同時にかなり考えさせられる内容の短編になっています。
盛大にネタバレしたいのですが、何を書いても核心に触れてしまうたぜひご自身の目で読んで確かめてみて欲しいです。
ヴァイオライト
かなり完全理解するのが難しそうな、芸術的でいて観念的な不思議なお話。
2人の青年が遭難しているような場面から始まるのですが、なぜそのような状況になっているのかなどの細かな説明はなく、独特なテンポ感、不思議なやりとりが続いていきます。
僕も繰り返し3回ほど読んでみましたが、なるほどそういうことか!と思うまでには至りませんでした。
謎解きでもやらされているような気分になりますが、ぜひ市川先生の真意に近づくべく何度も読んでみて欲しい不思議な作品です。
日下兄妹
野球部のエースピッチャーであった主人公の日下少年。
しかし試合で肩をダメにしてしまいわ手術を受けるよう勧められるのですが、手術が嫌で逃げ出してしまいます。
ある日古道具屋である実家の家業のお手伝いとして店番をしていると、売り物のタンスの部品が1つ外れ、転がっていってしまいます。
それをひたすら追いかけるのですが、次第にその部品は大きくなっていき、足が生え虫のようになり——という、ちょっと何言ってるかわからない系のお話。
しかしこれは絶対に最後まで読んで欲しい作品です。
今の導入部分からは想像できないかもしれませんが、きっと最後は号泣してしまうはずです。
野球生命のお終い、育っていくタンスのネジ、かけがえのない生命……と、市川先生のセンスの詰まった作品であるように思いました。
虫と歌
この作品集の表題作であり、「第14回手塚治虫文化賞新生賞」を受賞した読み切り作品です。
模型を作ることを仕事としている兄弟たちが主役で、長男のしている実験が非常に怪しくこの物語のキーになっています。
タイトルか察せるように虫も出てきますが、当然普通の虫ではありません。
以前このブログでも紹介した田中雄一先生の『まちあわせ』と同じような凶悪な虫たちでは無いのですが、『虫と歌』の虫もかなり特殊です。
この作品も、最初は「え?え?」思いながら読み進めるのですが、途中から謎の愛着を全ての人物たちに持つようになってしまいました。
その現実感の持たせ方、愛着の沸かせ方?は本当にうまいなぁ、と思います。
そして最後にはやはりしっかり泣かされてしまうのです。
非常にメッセージ性の強い、傑作だと感じました。
ひみつ
おまけの超ショート作品。
短いのですが、面白みに満ちたひみつの作品。
『虫と歌 市川春子作品集』を読んだ方の反応
あ! すごいです、僕には難解過ぎたヴァイオライトを真っ先に挙げている方を発見。
まさにスルメ漫画!
『虫と歌 市川春子作品集』は何度も読み返し噛み締めたいちょっと不思議な生命の物語
読むと分かるのですが、この作品集はすべて生命について描かれていますが、どの生命もいわゆる「普通の生命」ではないのがミソです。
故にメッセージ性はより強烈なものとなり、読者に考えさせることにもつながっている気がしました。
wikiによれば、市川先生は『虫と歌』が認められなかったら漫画家やめようとすら思っていたのだそうです。
それほどの覚悟と熱意を持って描かれたこの作品集、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。
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